アカデミー賞最多ノミネートで話題のミシェル・ヨー主演映画、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
この作品内で、象徴的なシンボルとして登場するのが、『ベーグル』と『グーグルアイ(ギョロ目)』です
この記事では、これらのシンボルが何を意味しているのか、考えていきたいと思います
この記事は作品のネタバレになる内容を含みます。本編を未鑑賞の方はご注意ください。
二つのシンボル
この映画には、二つの象徴的なシンボルが登場します
一つは、マルチバースの崩壊を試みる、ジョブ・トゥパキ によって作られた『ベーグル』
もう一つは、マルチバースの救世主である、エヴリンが額に取り付けた『グーグルアイ(ギョロ目)』です
『ベーグル』は周りが黒く中央が白い円、『グーグルアイ』は周りが白く中央が黒い円と、二つは対照的なシンボルになっています
ベーグルの意味
ベーグルに代表される黒い円は、この映画を通して何度も登場します
コインランドリーが回転している様子、監査官のディアドラが請求書に記した黒い丸
そしてディアドラがエヴリンを襲おうとした時に、額につけていたマークもそうです
この円は、ひたすらループして同じ所を延々と回り続ける、無意味さの象徴になっています
そしてこの無意味さは、ジョイの持っている価値観と直結しています
ジョイの価値観
ジョイは、祖父であるゴンゴンに、ベッキーが恋人であると言うことができません
母親に生き方を強制され、ジョイは自分らしく生きることができていないのです
アルファバースの世界では、それがさらに増幅されています
アルファバースのエブリンは、ジョイに何度もバースジャンプを強制させ、限界を超えるまで追い込みました
それによって大きな負荷がかかり、ジョイの精神は破壊されてしまいました
あらゆる世界、あらゆる可能性にアクセスできるようになり、あまりに多くの物を見たジョイは、ある一つの真実にたどり着きます
『何も重要ではない』
あまりにも数が多いと、その一つ一つは無価値に感じられてしまうものです
もしも今日が地球最後の日だとしたら、その1日は最も貴重で大切な時間に感じられるでしょう
しかしそれとは反対に、あと1億年生きられるとしたらどうでしょうか?
そのうちのたった1日なんて、無意味に過ごそうが、無くなってしまおうが、気にも留めないはずです
無数に存在するマルチバースで、あらゆる全ての物を見てきた彼女は、自分というたった一人の存在に何の価値も見出せなくなってしまったのです
そんな悲しい真実にたどり着いてしまったジョイは、自己破壊の願望を抱き始めます
その願望を叶えるために作られたのが、ベーグルです
ベーグルに乗せられたあらゆるものは、全て崩壊していってしまいます
ベーグルは、無意味の象徴であると同時に、破壊の象徴でもあるのです
グーグルアイ(ギョロ目)の意味
そんな『ベーグル』と対極的なデザインである『グーグルアイ』は、その意味も、『ベーグル』とは真逆のものを持ちます
『ベーグル』は無意味・無価値・破壊の象徴であるのに対し、『グーグルアイ』は意味を見出すこと・命を与えること・再生の象徴です
生命が誕生しなかった世界で、石であるエヴリンがグーグルアイを持つと、命を与えられたようにジョイの方へと動き出していきます
また、エブリンにグーグルアイを付けられた、アルファ・ゴンゴンの部下たちは、香水を嗅いだり、犬を可愛がったり、クッキーを食べたりと
それぞれ自分なりの楽しみを見つけ、人生に意味を見出していきます
ウェイモンド の価値観
そして、このグーグルアイを最初に取り付けていたのが、ウェイモンドです
ウェイモンドは、コインランドリーのお客さんの服を2階に移動させ、グーグルアイを取り付けていました
なぜなら、『その方が服が幸せそう』だからです
しかしエヴリンは、このグーグルアイを取り外し、捨ててしまいます
この時のエブリンは、人生に意味も楽しみも見出せていないからです
彼女は保守的な父の影響で、追いかけたかった多くの夢や、目標をあきらめてきました
そして自分が生き方を強制されたように、娘にも生き方を強制してしまいました
なので、エヴリンとジョイは同じなのです
だからエヴリンも、一度はベーグルの価値観に共感し、何もかも無意味だと感じます
洗濯と税金、そしてまた洗濯と税金、人生はただ堂々巡りしているだけだと
そしてエヴリンは、監査官からの重要な電話を、『そんなのどうでもいい』と言って切ってしまいます
さらに、バットでコインランドリーの店内をめちゃくちゃにし、全てを台無しにしてしまいます
しかしそこで、ウェイモンドが監査官と話をし始めます
エヴリンは、『またバカな夫が事態を悪化させるのではないか』と疑いますが
ウェイモンドは持ち前の優しさと共感力で、監査のディアドラを説得し、元通りに戻してくれました
ウェイモンドはまさに、何もかも破壊するベーグルと対をなす、グーグルアイを象徴する存在なのです
2つのバランス
ベーグルとグーグルアイの意味するものは対極にありますが、これはベーグルが間違いで、グーグルアイが正しいということではありません
エヴリンにとって、ベーグルの考え方も必要なものなのです
全てを台無しにした後、エヴリンは石になります
石になったことで気づくのです。いくつも存在するだだっ広い宇宙の中で、人間はなんてちっぽけな存在なのかと
これはまさに、ジョイが辿り着いた『何も重要ではない』という真実です
自分が重要な存在ではないという事実は、受け入れなければなりません
受け入れた後で、それをどう捉えるかが重要です
必要なのは、ウェイモンドのような楽観的な視点、つまり、グーグルアイで見ることです
『何も重要でない』なら、税金のような小さいことで気を病む必要はありません
『何も重要でない』からこそ、自由に何でも好きなことをしていいのです
ベーグル(ジョイ)とグーグルアイ(ウェイモンド)の両方のバランスが取れた時、エヴリンは初めて、自分の人生を生きられるようになったのです
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